第63話 決まらない気持ち
【カテゴリ:微妙な付き合い 】   




その日。

僕は東京にいました。

月末には、ブース展示でまた来るのですが、補助金をもらってやっている仕事の特許の打ち合わせで、特許事務所に行きました。

僕は朝早くに実家を出て、電車に乗り、東京に向かいました。

その打ち合わせは、午前中の約束でしたし、ほとんど書類に判子を押すだけのものでした。

それはつつがなく終了。

事前にいろいろと話も詰めてありましたので、本当に書類確認だけで、すぐに終わり、11時前には、体が空いたのでした。

で、僕は、打ち合わせをしたところから少し移動して、池袋の駅まで行き、その西口から出たところの近くの広場のベンチに座って、ちょっと考えていました。

花子さんとの約束のことを。


東京に来て、お昼を食べられるようなら連絡するという約束。

そして、前年には何度か花子さんと昼食を食べました。

また、花子さんが僕の地元にも来てくれました。

それはとても楽しく、凹んでいた僕にとっては夢のような時間でした。

そして花子さんは、前に電話で話したときも、「東京に来るようなことがあれば連絡をください」といっていました。

そして今。

時間はまだ11時。

お昼までに、花子さんの病院の近くまで行くには、十分な時間です。

ですから、普通に考えれば、ここで花子さんにメールを送ることはなにも不自然ではないわけです。

もちろん、実際に会って昼食を一緒に食べられるかどうか?というのは、花子さんの仕事次第ですから、

どうなるかはわかりませんが、とにかく連絡をとらなければ何も始まらないわけです。


でも、僕は連絡をとるかどうかをかなり迷っていました。

3月末の花子さんとの電話で感じた、彼女との圧倒的な差のこともわだかまりとして残っていました。

さらに、占い師の山田さんとの出来事で感じた、自分の性格のことが頭から離れませんでした。

花子さんに会って変なことを言い出しそうな気がして、それで嫌われたりするのが嫌だったのでした。

こんな感じで、諸々のネガティブなことを考えているうちに、どんどん思考は下の方向へと流れていきます。

「花子さんは、本当に、僕と会って昼食を食べるのが楽しいのか?」

という疑問がまた頭に浮かんできました。

そういう風に考え始めると、簡単に負のスパイラルに入っていくわけです。

病院が忙しいのに、連絡が来たら迷惑なんじゃないか?とか、

東京に来たら連絡してくださいって言うのはやっぱり社交辞令なんじゃないのか?とか、

僕みたいに就職すら出来てない人と会っているのを新しい病院の同僚に見られたら、花子さんが馬鹿にされるんじゃないか?とか…

こんなところまで、考え始める始末です。

もう、精神的に落ち始めると、際限なく落ちて、悪い方向へと考えが進んでいきます。

今思うと、これはかなり極端な考え方だと思えますし、ある意味おかしいですが、

そのときの僕にはこれは、真剣な悩みだったのでして、本気で検討されていた事柄なのでした。

でも、一方で、花子さんのこと、とても好きになっていましたし、やっぱり顔を見たいし、声も聞きたい。

それに、花子さんに会えば、この下向きの気持ちも上向くんじゃないか?なんて自分勝手なことまでも思いました。


なので、どうするか?を決めかねてしまい、ずっと考えていました。

その間にも時間はどんどん過ぎていきます。

昼までに花子さんの病院の近所まで行くならそこを離れなければならない時間が、だんだんと近づいてきます。

それでも、なかなか決められず、携帯を出してメールを書きかけて、やっぱりしまってみたりとか、

意味なく、他のベンチに移動してみたりとか、

イライラしながら考えていたので、きっと他から見たら、かなり不審な行動をとっていたと思います。

でも、周囲のことに神経が向かないくらい、僕は悩んでいました。

考えるのが嫌になるくらいに。


そして、もう行かないと間に合わないとなったとき、結局、時間という制約に背中を無理矢理押されるような格好で、やっとどうするかを決めて、僕は立ち上がって歩き始めたのでした。




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【2008/05/12 09:14】 | 微妙な付き合い | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
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コメント
負のスパイラル
ネガティブの渦の中でも花子サンに会いに行こうとするあたり…潜在意識の中では、花子サンに会いたい気持ちと約束を守りたい気持ちが優っていたのかもしれないですね( ̄ー ̄)自分を嫌いになると生きるのが辛くなりますよね。逆に自分を肯定してる人は例えどんな人でも力強いですよね(^_^;)
【2008/05/12 23:01】 URL | びびっと [ 編集] | page top↑
>びびっとさん
このとき、やっぱり自分のことがすごく嫌いになっていましたから、それで周りの人にも嫌われるのが嫌でしたし、ましてや花子さんに嫌われるのもかなり怖かった感じです。
僕はなかなか自分を肯定したり、許したり出来ないタイプなので、そういうところがうまくできる人って、やっぱり羨ましいです。
【2008/05/13 14:40】 URL | 小太郎 [ 編集] | page top↑
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